気まぐれMVBLOG

デジタル マーケティング

ネット新時代の顧客とのつながり方-「グランズウェル」とは何か-

グランズウェルに乗る企業戦略〜ネット新時代の顧客とのつながり方〜

最近のウェブサイト(ホームページ)は、ソーシャルテクノロジーを活かしたものが増えてきた。「グランズウェル」と呼ばれる、この大きな流れを読み取り、さらに加速しているネットビジネスの行方を考えたい。

インターネットの潮流はここにきて新たな局面を迎えつつある。ユーザーが関与する技術が以前にも増して影響力を増してきた。それはブログをはじめ、コミュニティやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、ユーザー投票や格付け(ランキング)、レビュー、動画など多岐にわたる。
 これらは総じて「ソーシャルテクノロジー」と呼ばれている。ソーシャルテクノロジーとは、オンライン技術を活用したソーシャルメディアのこと。ここでいうソーシャルは、ユーザーの参加や関与を指す。要するに、ネットの舞台では、今まで以上にユーザーが主役に据えられつつあるということだ。
「グランズウェル」とは何か
それらのソーシャルテクノロジーはインターネット社会全体に大きな変化をもたらしている。その変化を俯瞰してみると、大きな流れがみてとれる。この流れこそが「グランズウェル」だ。
 もともとグランズウェル(groundswell)は「大きなうねり、高まり」の意。米フォレスター・リサーチ社のアナリストが今のソーシャルテクノロジーの隆盛によるユーザーの変化を分析し、その変化の流れを捉えてグランズウェルと呼んだ。グランズウェルは決して一過性のものではなく、また、後戻りをすることのないこれからの大きな流れでもある。 『グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略』(シャーリーン・シー/ジョシュ・バーノフ著)の序文では、グランズウェルをこう記している。
 「一言で言うなら、グランズウェルは社会動向だ。人々はソーシャルテクノロジーを使って、自分に必要な情報を、企業からではなく、別の個人から調達する」
 ツーリズムにおいてもグランズウェルのトレンドは例外ではない。デスティネーションに特化したコミュニティをはじめ、ユーザーの旅行記サイト、ホテルのレビューや格付け、航空会社ランキングなどグランズウェルは大活躍だ。
図1/ファネル理論とグランズウェル グランズウェルは特にマーケティング分野で脚光を浴びているわけだが、その大きな理由のひとつに従来型のマーケティングでは難しかったアプローチも可能になることが挙げられる。このことはファネル理論に当てはめてみるとわかりやすい。ファネルは”じょうご”のことだが、その形状にたとえて、見込客から購買までを絞り込まれる段階が示される(図1)。従来のマーケティングでは、中間段階へのアプローチは困難だった。しかし、グランズウェルはまさにこの段階にも大きな影響を及ぼしている。

日米のユーザー参加度
さて、グランズウェルへのユーザーの参加度は、その関与具合で分けることができる(図2)。その傾向と特性を見ていこう。
図2/グランズウェルの参加度?日米比較?
 このうち最も活発にかかわっているのが「創造者(Creators)」だ。自身のブログを頻繁に書いたり、ウェブサイトに記事や動画などの投稿を積極的に行う層である。公表されている最新データ(08年)では、米国の場合は21%、日本の場合はブログが多いこともあり34%に達している。個人サイトであるにもかかわらず、政府観光局顔負けの(ときにはそれ以上の)デスティネーションガイドに遭遇することも少なくないが、この層に分類される。
 次に、自ら創造するほどではないが、他のウェブサイトにコメントしたり、格付けやレビューといった行動に参加する層を「批評者(Critics)」と呼ぶ。米国ではこの層が2番目に多く36%に上る。一方の日本は32%である。宿泊サイトの口コミもここに入る。
 自分の意見は表面には出さないものの、ソーシャルテクノロジーを活用して情報を集める層を「収集者(Collectors)」と呼ぶ。ソーシャルブックマークでURL を整理したり、RSS と呼ばれる新着情報の要約配信機能を活用したりする。最新データによると米国が18%で、日本はわずか12%にとどまる。 SNS などに参加して、自らの情報を更新している層を「加入者(Joiners)」と呼ぶ。日本ではミクシィが知られているが、世界規模ではフェイスブックが最も有名だ。米国では34%、日本では30%を占める。
 グランズウェルの参加度で最も消極的と位置付けられているのが「観察者(Spectators)」である。上記のブログや格付け、レビューなどのコンテンツ閲覧という形で利用するタイプ。米国では69%で、日本では71%に達する。
 なお、オンラインユーザーなのに全くグランズウェルに参加していないのが「不参加者(Inactive)」となる。しかし最新の調査では、米国では24%で、07年の調査では41%だったことを考えると、不参加者は激減し、その分、グランズウェルの参加に転じていることがわかる。
5つの戦略を使いこなす
企業がソーシャルテクノロジーを活用して、どのようにグランズウェルに取り組んでいくかという観点でみた場合、目的によって戦略を使い分けていくことが大切だ。大きく挙げると5つある(図3)。
図3/グランズウェル5つの戦略
(1)耳を傾ける(傾聴戦略)
 従来はアンケート調査やフォーカスグループでユーザーのマインドを読み取る試みをしたが、グランズウェルの「傾聴戦略」を使えば、容易に顧客インサイトを観察することができる。最もシンプルな方法は、ユーザーのブログやフォーラムにある意見を分析するモニタリングだ。
事例1/インターコンチネンタルホテルグループ さらに本格的に取り組むことができるなら、プライベートコミュニティを立ち上げ、そこで意見を交換してもらうといい。米国では企業のプライベートコミュニティを提供するサービスが花盛りだ。ツーリズム産業でも、KLM オランダ航空をはじめ、スターウッド、ヒルトン、インターコンチネンタルなどの大手ホテルグループが軒並み利用している。なかでもインターコンチネンタルは、米フォレスター社主催の「2009年度グランズウェル大賞」の傾聴戦略部門にノミネートされ、注目を集めている。

(2)話をする(会話戦略)
 グランズウェルだと容易に話ができるようになり、しかもその方法も多岐にわたる。最も簡単な方法は、SNS やUGC(ユーザー生成コンテンツ)サイトに参加することだ。そのほか、社員や関係者にブログを書いてもらうのもいい。そのブログを軸にして生まれるユーザーとの会話は、まさにユーザーの生の声を聞くチャンスだ。さらに、自らコミュニティを立ち上げていくのも、ひとつの方法だ。
(3)活気づける(活性化戦略)
 特定のデスティネーションや航空会社ブランドなどに強い愛着をもった熱心なユーザーは、エンゲージ度も高い。そのパワーをソーシャルテクノロジーに組み込めば、強力な力を発揮する。特にクチコミでの効果は大きい。フォレスター・リサーチの調査では、83%は友人や知人の推薦を信じ、さらに半数以上は見ず知らずの人のオンラインレビューを信じる、という結果もある。
 方法としては、レビューや格付けを導入し、熱心なユーザーに華やかに活躍してもらうのもいいだろう。そのブランドを冠した名誉(たとえば認定アドバイザーなど)を付与することで、さらなる情熱を注いでもらうことも可能だ。
(4)支援する(支援戦略)
事例2/ソニー 従来サポートは、企業が顧客に提供するものだったが、グランズウェルでは顧客同士が助け合うことができるようになる。日本ではソニーの例がわかりやすい。
 同社はパソコン「バイオ」シリーズを展開しているが、自社サイト内にユーザー同士が意見交換できるサイトを作り、使い方や周辺機器のトラブルなどを解決できるようにした。メーカーが立場的に言えないことも、ここではユーザー同士が活発に意見交換している。メーカー自身がその場所を提供することで、先に挙げた他のグランズウェル戦略の実践も容易になり、一石二鳥にも三鳥にもなる。

(5)統合する(統合戦略)
 従来は顧客がビジネスに組み込まれることはなかった。それがグランズウェルでは、顧客がそこに参加することも可能だ。ツーリズムでの応用でいえば、ツアー造成で顧客のアイデアを取り入れていくことが考えられる。ツアーは熟練のプロが作るもので素人には到底無理、と思っているとしたら、その考え自体、グランズウェルへの乗り遅れが決定してしまうようなものだ。
 繰り返すが、グランズウェルは不可逆の流れで、しかもユーザーはすでにそこに移動している。グランズウェルのベースにあるのは、「人々はもともとつながりたい」という基礎的な欲求だ。その欲求を正しく満たすことができれば、それは顧客の心をつかみ、顧客エンゲージメント(愛着)に導くことができる。それは決して難しいことではない。ネット戦略で手遅れにならないためにも、この機会に、自らのビジネスの中でグランズウェルをどのように取り込むべきかを考えてみる時期にきているだろう。
(2009年8月31日号掲載)