ホーム > コラム・講演 > ユーザーの「愛着」を深める、顧客エンゲージメント

ユーザーの「愛着」を深める、顧客エンゲージメント

週刊トラベルジャーナル誌 週刊トラベルジャーナル誌 執筆・鶴本浩司

『顧客エンゲージメントとは』


ユーザーがどのくらいその旅行会社や旅行商品ブランド、デスティネーションに対して「愛着」をもっているかがこれから大きなカギを握る。マーケティング上でいまもっとも熱いまなざしが注がれている指標「顧客エンゲージメント」とは何かを解説する。


もともとエンゲージメントは約束や婚約といった意味で、婚約指輪を「エンゲージリング」と呼ぶことでも親しまれている(もっともこれは和製英語で、正しくはengagement ring だが)。やがて欧米企業の中で顧客に対するマーケティングでも用いられるようになってきた。それが「顧客エンゲージメント」(Customer Engagement)である。


 顧客エンゲージメントとは、企業自体や商品やブランドなどに対する消費者の深い関係性のこと。日本語で最も近い感覚の言葉に置きかえるとしたら「愛着」あたりが候補のひとつだろう。そのほか、「結び付き」とか「きずな」といった表現も見受けるが、いずれにしてもそれは「満足」や「誠実」からさらに一歩踏み込んだ感情で、消費者の積極的な関与や行動を伴う。もっとも定義についてはまだ流動的で、米国では米広告調査協会(ARF)をはじめとした業界団体が定義をめぐって熱い議論を重ねているものの、まとまるまでには至っていない。それでも顧客エンゲージメントはこれからの大きなトレンドになることは間違いなく、1 〜2年後には本誌上でもごく当たり前のように「顧客エンゲージメント」という文字が登場しているかもしれない。


 話を戻して、顧客エンゲージメントをツーリズムに当てはめて考えてみよう。消費者から見た顧客エンゲージメントの相手は、旅行会社自体もあれば特定のホールセール商品もあるし、特定の航空会社ブランドもある。外国政府観光局の立場でいえば、デスティネーション自体が顧客エンゲージメントの対象だ。周囲に少なくともひとりやふたり、特定デスティネーションに強い思い入れがあり、自ら何度もその地へ足を運ぶだけでは飽き足らず、ことあるごとにそのデスティネーションの素晴らしさを熱く語る友人がいるのではないだろうか。それがまさにエンゲージした状態ということだ。


 ところで顧客エンゲージメントという表現は以前にも少ないながら使われていた。しかし、それは商品やブランドに対しての好感や愛顧、ロイヤルティ(誠実)といった意味合いが強く、一方通行的なものにとどまっていた。やがてインターネットの時代に移り、しかもWeb2.0的サービス(Web2.0はあまり聞かなくなったものの、概念を指す総称としては別に死語ではない)に表されるようなユーザー参加の技法やソーシャルマーケティングとも相まって、消費者が積極的に関与できるようになった。そうして顧客エンゲージメントは本格的に脚光を浴びるようになった。


 なお、エンゲージメントはビジネスの世界では顧客エンゲージメントのほか、企業における従業員との関与を示した「従業員エンゲージメント」もある。こちらは従業員による会社への愛着心のこと。会社に対してエンゲージした従業員は積極的な取り組みの姿勢があり、会社ブランドへの自発的な貢献度も高い。ついでに覚えておこう。


図1 顧客エンゲージメントとは?


接触を重ねて段階を高める
異性と出会ってその日のうちに婚約するということが(たぶん)ほとんどないのと同じように、顧客がその相手と巡り合って瞬時にエンゲージすることは考えにくい。顧客エンゲージメントは目に見えない心理的なもの。だからこそある程度のコミュニケーション(接触)を重ねて高められるものであり、それには当然ながら時間も要する(図2)。エンゲージメントは醸成でもある。


図2 顧客エンゲージメントまでの概念


 また、同じ顧客エンゲージメントでも、愛着が深まれば関与の仕方も異なる。ここでは顧客エンゲージメントのレベルを、デスティネーションを例に当てはめながら整理してみよう(図3)。


図3 エンゲージメントのレベル


 まずレベル「低」の段階は、愛着をもっているデスティネーションに関するウェブサイト(ホームページ)を自分のブラウザの「お気に入り」に追加したりする。行動を起こしているものの、まだ表舞台には出てこない状態だ。それがやがてレベル「中」になると、そのデスティネーションに関連するウェブサイトで、宿泊施設やオプショナルツアーの評価欄で投票したり、コメントを付けたり、といった積極的な行動を伴うようになる。


 そして、レベル「高」になるとさらに積極さを増し、そのデスティネーションにまつわるブログを作って発信したり、そのデスティネーションを愛好するオンラインコミュニティに参加したりする。レベル「最高」になれば、そのデスティネーションに愛着をもつユーザーが集えるようなオンラインコミュニティを主宰する、といった関与にまで発展する。
 レベル「高」や「最高」になると、愛着の度合いは文句なしのレベルであることはもちろんだが、その知識においてもプロの域に達していることも少なくない。こうしたユーザーは、今までにないデスティネーション訴求のアイデアなどをもっていることも多いので、うまく関わり合うことでさらにいい展開も期待できる。


新たなコミュニケーションがベースに
では顧客エンゲージメントの利点は何かを考えると、旅行会社にとっては収益に貢献するということが何よりも大きい。米ギャラップ社の調査によると、支出割合などの評価指標で、エンゲージした顧客は平均的な顧客よりも23%も高いという結果もある。顧客満足が高いので、ちょっとしたことでは競合他社に乗り換えることもない。


 顧客エンゲージメントには、消費者がブランドに参加し、共有し、そして反応する、という2ウェイの新しいコミュニケーションがベースにある。なかでもブランドにユーザーが参加するという概念は従来とは異なるので、発想を変えていくことも必要だ。いまや自動車会社の開発チームが、新ブランドの乗用車についてユーザーとネットでコミュニケートしている時代なのだ。


 エンゲージメントマーケティングを実践していくにあたり、まずは自社の顧客エンゲージメントのレベルを検証してみてはどうだろうか。


(2009年4月13日号掲載)



ページの先頭へ戻る
?